生前贈与は、被相続人（財産を所有する人）が生きている間に財産を子どもや孫などの相続人へ移転する方法です。
これをうまく活用することで、相続時の財産分割を円滑に進め、相続税の負担を軽減することができます。生前贈与にはさまざまな方法があり、目的や家族構成に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
以下では、生前贈与を活用した具体的な財産移転の方法と、それぞれの特徴や注意点について詳しく解説します。
このページの目次
1. 暦年贈与（毎年の贈与）
暦年贈与は、毎年の贈与税の非課税枠を利用し、少しずつ財産を移転する方法です。日本の贈与税には、年間110万円までの非課税枠が設定されており、この枠内であれば贈与税はかかりません。
この方法を長期的に活用することで、相続財産を徐々に減らし、相続税の負担を軽減することが可能です。
特徴
贈与税の負担がない
年間110万円までの贈与は非課税であり、贈与税がかかりません。
長期的に実施可能
毎年繰り返し利用することで、長期的に財産を移転できます。
メリット
シンプルで管理が容易
毎年の贈与額が決まっているため、計画的に進めやすいです。
贈与税が発生しない
110万円以下の贈与であれば贈与税がかからないため、税負担がなく進められます。
注意点
大きな財産移転には不向き
大きな金額を一度に贈与することはできないため、財産の規模が大きい場合には長期的な計画が必要です。
相続開始前3年以内の贈与は加算される
相続開始前3年以内に行った贈与は、相続税の計算に加算されるため、相続直前の贈与には注意が必要です。
2. 相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度は、贈与時に一定の贈与税を納めた上で、相続時に贈与した財産を相続財産として精算する仕組みです。
この制度を使えば、2,500万円までの贈与に対して贈与税がかからず、それを超える部分に一律20％の贈与税が課されます。相続時には、これまでに贈与された財産が相続財産に加算され、相続税が再計算されます。
特徴
贈与時に大きな額を移転可能
2,500万円までの贈与が無税で、これを超えた部分に一律20％の贈与税がかかります。
相続時に精算される
贈与時点では無税ですが、最終的に相続時に相続財産に加算され、相続税の対象となります。
メリット
大きな財産移転が可能
一度に多額の贈与ができるため、相続時に大きな財産の移転を計画する場合に有効です。
税率が低い
一律20％の贈与税で済むため、高額な贈与を行いたい場合でも安心です。
注意点
相続時に再度計算が必要
贈与時に無税であっても、最終的には相続時に相続財産として課税されます。
制度の適用が限定的
贈与者が60歳以上の父母または祖父母、受贈者が20歳以上の子や孫に限られています。
3. 住宅取得資金贈与の特例
住宅取得資金贈与の特例は、子や孫が自宅を購入する際に、その資金を贈与する場合に利用できる制度です。一定の条件を満たせば、最大で1,500万円までの贈与が非課税となります。この制度を利用することで、高額な住宅購入資金を効率的に贈与することができます。
特徴
高額の贈与が可能
住宅取得資金に限り、最大1,500万円までの贈与が非課税となります（条件あり）。
住宅の購入が目的
贈与された資金は住宅取得のためにのみ使用できます。
メリット
高額な贈与が無税でできる
特定の目的（住宅購入）に限られますが、大きな贈与額が非課税となります。
住宅購入支援として有効
子や孫の住宅取得を支援するための効果的な手段です。
注意点
目的が限定される
贈与された資金は住宅購入にのみ使うことができ、他の用途には使えません。
条件の確認が必要
適用には、贈与者や受贈者の年齢、住宅の規模や条件を満たす必要があります。
4. 教育資金贈与の非課税特例
教育資金の一括贈与も、生前贈与の有効な方法の一つです。子や孫に対して教育資金として贈与を行う場合、1,500万円までの贈与が非課税となる特例が用意されています。この制度を活用することで、贈与された資金を教育目的に使用することができます。
特徴
教育資金の贈与が非課税
教育資金として贈与される場合、1,500万円までが非課税となります。
教育費に限定
贈与された資金は、学校の授業料や学費、教育に関連する費用にのみ使用可能です。
メリット
高額の贈与が可能
教育資金として高額な贈与が無税で行えるため、子どもや孫の教育資金を効率的に支援できます。
将来の教育費用を一括で贈与できる
教育費をまとめて準備したい場合に有効です。
注意点
用途が制限される
教育目的に限定されるため、贈与された資金は他の用途には使えません。
贈与者・受贈者の要件
贈与者や受贈者の年齢制限や、教育機関に支払う費用に限定されます。
5. 生前贈与信託の活用
生前贈与信託は、信託銀行を通じて生前贈与を行う方法です。例えば、毎年一定額を信託銀行に預け、その金額を子や孫などの相続人に計画的に贈与することが可能です。信託銀行が管理するため、手続きが簡素化されるのが特徴です。
特徴
計画的な贈与が可能
信託銀行を介して、生前贈与を計画的に行えます。
信託銀行が管理
信託銀行が財産管理を行うため、安心して贈与が進められます。
メリット
手続きが簡素化
信託銀行を通じて管理されるため、手続きがシンプルで安心感があります。
財産の安全性が高い
信託銀行が厳格に管理するため、贈与者や受贈者が安心して利用できます。
注意点
手数料が発生する
信託銀行を介するため、管理費用や手数料がかかる場合があります。
信託銀行の選定が必要
信頼できる信託銀行を選定することが重要です。
6. 生命保険の活用による生前贈与
生命保険を活用して、受取人を子どもや孫に指定し、死亡保険金を相続人に遺す方法も生前贈与の一環として有効です。生命保険金の一部には非課税枠があり、これを活用することで相続税対策にもなります。
特徴
生命保険金に非課税枠
法定相続人1人あたり500万円までの死亡保険金が非課税となります。
受取人を指定できる
受取人を特定の子どもや孫に指定して贈与できます。
メリット
非課税枠がある
生命保険を利用すれば、高額な保険金を贈与しても一部が非課税となります。
特定の相続人に財産を遺せる
遺言書や相続分とは異なる形で、生命保険金を特定の相続人に確実に残せます。
注意点
保険料の支払いが必要
生命保険料の支払いが必要で、加入時に高額の保険料が発生することがあります。
保険商品の選定が重要
適切な保険商品を選定するため、専門家に相談することが推奨されます。
まとめ
生前贈与は、財産を計画的に相続人へ移転し、相続税の負担を軽減するための有効な方法です。暦年贈与や相続時精算課税制度、住宅取得資金贈与など、さまざまな方法を組み合わせることで、家族にとって最適な財産移転を実現することができます。
また、贈与税や相続税の負担を最小限に抑えるためにも、税務や法律の専門家に相談しながら進めることが重要です。
当事務所では、生前贈与を含む相続対策のサポートを行っております。相続に関するお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
