家族信託を利用して事業承継をスムーズに進める方法

家族信託は、財産や資産の管理を家族に託す仕組みで、事業承継の場面でも有効に活用できます。特に、オーナー経営者が高齢化や認知症リスクに備えながら後継者へ事業を引き継ぎたい場合、家族信託によって財産管理を柔軟に行い、スムーズな承継を実現することが可能です。

以下では、事業承継における家族信託の活用方法と、そのメリットや注意点について詳しく解説します。

1. 家族信託による事業承継の基本的な仕組み

家族信託を活用した事業承継では、事業の株式や不動産、設備などの事業資産を、家族信託の形で後継者(子や信頼できる親族)に託す形を取ります。この仕組みによって、経営者が判断力を失った場合や引退を考えたときにも、信頼できる後継者にスムーズに事業を託すことが可能です。

登場人物

1. 委託者(現経営者)

事業承継を行う本人で、信託の設定後も、受益者として事業資産の収益を受け取ることができます。

2. 受託者(後継者)

信託契約に基づいて事業の株式や資産を管理し、運用していく人物です。通常、後継者(子や親族)が受託者となり、経営管理の役割を担います。

3. 受益者(現経営者や後継者)

信託財産から得られる収益を受け取る人で、現経営者が生前の間は自らが受益者となり、引退後は後継者が利益を受け取る形を設定できます。

2. 家族信託による事業承継のメリット

家族信託による事業承継には、従来の相続や成年後見制度を用いる場合に比べて、いくつかのメリットがあります。

2.1 認知症など判断能力低下への対応

現経営者が判断能力を失っても、事業をスムーズに引き継げるのが家族信託の大きな利点です。成年後見制度では、資産の処分や管理が家庭裁判所の関与で制約されることが多いですが、家族信託ならば契約に基づき、信頼できる後継者が柔軟に事業を運営できます。

2.2 株式や不動産の管理をスムーズに

事業承継で重要な事業用の株式や不動産も、家族信託により受託者に管理させることが可能です。信託契約により、後継者が経営権を持ちながら資産の管理を担うことで、会社の意思決定や不動産の運用がスムーズに行えます。

2.3 遺産分割におけるトラブルの防止

事業承継には、相続発生時に事業資産の分割が原因でトラブルが生じるケースが少なくありません。家族信託を活用することで、事業資産を後継者へ確実に引き継ぎつつ、遺産分割トラブルを未然に防ぐことができます。

特に、事業用資産を分割せずに後継者に集中して引き継ぎたい場合に適しています。

3. 家族信託を活用した事業承継の流れ

家族信託による事業承継は、以下のステップで進められます。

事業承継の計画と相談

まず、事業承継の目的を明確にし、信頼できる専門家(司法書士や税理士)に相談しながら、どの資産を信託するか、どのような形で承継するかを計画します。

信託契約書の作成

事業承継の内容が決まったら、信託契約書を作成します。契約書には、信託財産の内容(株式や不動産など)、管理方法、後継者が受託者として行うべき業務、受益者や信託終了後の受益者の指定などを記載します。

信託財産の名義変更

信託契約を締結した後、信託する財産の名義を受託者に変更します。株式の場合は株主名簿の変更、不動産の場合は信託登記が必要です。これにより、信託財産として正式に管理が開始されます。

事業の管理と運用

信託契約に基づき、受託者が事業資産を管理・運用していきます。契約書に明記された信託目的や運用方針に沿って事業承継が進められ、現経営者が引退した後も後継者が事業を円滑に継続できます。

4. 家族信託による事業承継の注意点

家族信託による事業承継には、いくつかの注意点もあります。事前に理解しておくことで、スムーズな事業承継を実現できます。

4.1 信頼できる後継者(受託者)を選ぶこと

受託者は、事業の株式や資産を管理する重要な役割を担います。したがって、事業に対する理解や管理能力があり、家族や経営者からの信頼が厚い人物を選定することが不可欠です。

4.2 他の相続人の納得を得る

家族信託で事業を特定の後継者に引き継ぐ場合、他の相続人が財産分配に不満を持つケースがあります。事前に家族で話し合い、他の相続人が納得するような資産分配や遺留分対策を考慮することが大切です。

4.3 税務上の扱いと費用の確認

家族信託を活用する場合、信託契約書の作成や登記手続きにかかる初期費用が発生します。また、信託契約の内容に応じた税務上の影響も考慮する必要があり、信託財産の所得税や相続税の取り扱いについて税務専門家と相談し、負担が軽減できるように計画を立てましょう。

5. 家族信託を活用することで得られるメリットの事例

以下に、家族信託を活用した事業承継での具体的なメリットの事例を紹介します。

事例1:認知症リスクに備えた事業承継

70代の経営者Aさんは、判断能力が低下した際に会社の運営が滞らないよう、家族信託を活用して事業承継を行いました。Aさんは信頼する長男を受託者とし、会社株式や経営に関わる不動産を信託財産としました。

信託契約により、Aさんが認知症になった場合も長男がスムーズに経営管理を行うことができ、事業の安定性を確保しました。

事例2:財産分配の調整を家族信託で実現

会社を経営しているBさんは、会社株式を長女に引き継ぐ一方で、不動産を次男に引き継ぎたいと考えていました。家族信託を活用して、長女を受託者として会社株式の管理を任せ、次男に不動産の管理を引き継ぎました。

このことで、事業承継と不動産承継が分離され、各相続人が納得できる形で資産分配が実現しました。

まとめ

家族信託は、事業承継をスムーズに進めるための有力な選択肢です。特に、高齢経営者が将来の判断能力の低下や認知症リスクに備えつつ、信頼する後継者に事業を引き継ぐ際には大きな効果を発揮します。

また、二次相続まで考慮した事業承継や、家族間でのトラブル防止にも有効です。

当事務所では、事業承継における家族信託の設計から信託契約書の作成、税務アドバイスまでトータルでサポートいたします。事業承継を検討中の方は、お気軽にご相談ください。

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