高齢者のための生前対策:家族信託と遺言書の併用

家族信託遺言書は、高齢者が安心して財産を管理・承継するために有効な生前対策の手段です。これらを併用することで、認知症や判断能力低下への備えと、亡くなった後の財産承継の両方を確実に実現できます。

家族信託は生前の財産管理、遺言書は亡くなった後の財産分配をサポートし、それぞれの役割を補完することで、生前・死後の双方において円滑な財産管理と承継が可能です。

以下では、家族信託と遺言書を併用するメリットや役割、注意点について詳しく解説します。

1. 家族信託と遺言書の役割の違い

家族信託と遺言書には異なる役割があります。双方を併用することで、各制度の長所を活かした効果的な財産管理と承継が可能になります。

家族信託

生前の財産管理が主な目的です。高齢者が認知症や判断能力を失った場合でも、信頼できる家族が財産管理を行えるようにする仕組みです。

遺言書

主に死亡後の財産分配を定める文書で、財産が確実に指定された相続人に引き継がれるようにするための制度です。

これにより、家族信託は生前の資産管理を補助し、遺言書は死後の相続を確実に行うための役割を持つことになります。

2. 家族信託と遺言書を併用するメリット

2.1 生前・死後の一貫した財産管理が可能

家族信託により、生前の財産管理は家族(受託者)に委ねられ、認知症や判断能力が低下しても、生活費や医療費の支出、不動産の売却などがスムーズに行われます。

そして、遺言書によって、死後の財産分配についての意思を明確にしておくことで、家族信託で管理していない財産も含め、死後の相続が本人の意向に従って確実に行われます。

2.2 認知症対策としての効果

認知症になり判断能力が低下すると、預貯金や不動産を自由に管理・処分することが難しくなります。家族信託により、信頼できる家族が管理・運用する権限を持つことで、必要な資産を柔軟に活用でき、成年後見制度よりも家族の負担が軽減されます。

遺言書と併用することで、亡くなった後の財産承継もスムーズに行えるため、家族が将来の生活を安心して計画することが可能です。

2.3 二次相続対策

家族信託と遺言書を併用すると、二次相続に備えた計画が可能です。たとえば、家族信託で委託者の配偶者が受益者となり、配偶者が亡くなった後は子どもに財産が引き継がれるように設定することができます。

これにより、配偶者の生活を守りつつ、財産を最終的に誰が承継するかを明確に定めることができます。

2.4 遺産分割トラブルの回避

家族信託では、信託財産についての権利がすでに設定されているため、財産の一部については遺産分割の対象から外れます。これにより、信託財産が遺産分割協議の対象となるのを防ぎ、相続人間でのトラブルを未然に防ぐことができます。

3. 家族信託と遺言書の併用例

家族信託と遺言書を併用することで、どのように財産管理と承継がスムーズに行えるのか、いくつかの例で見てみましょう。

例1:認知症対策と生活費の確保

高齢者Aさんが家族信託を利用し、長男を受託者として預貯金や自宅を信託財産としました。信託契約により、Aさんが判断能力を失っても、長男が生活費や医療費の支払いを信託財産から行えるように設定しました。

同時に、遺言書を作成し、残りの財産を配偶者や子どもにどのように分配するかを定めました。これにより、Aさんの生前・死後の財産管理と承継が一貫して行われます。

例2:事業資産の承継

事業を営むBさんは、後継者である長男に事業用の株式や設備を信託し、認知症になった場合も長男が事業の資産管理を行えるようにしました。

同時に、遺言書で事業以外の財産(自宅や預貯金)について、相続人である次男や配偶者に遺贈する内容を定めました。これにより、家族間での財産分割が円滑に行われ、事業承継もスムーズに進めることが可能になります。

4. 家族信託と遺言書を併用する際の注意点

4.1 信託財産と遺言財産の重複に注意

家族信託と遺言書を併用する場合、信託に組み込んだ財産は遺言書に含めることができません。信託財産は信託契約に従って管理・運用されるため、遺言書の対象から外れます。遺言書には、信託契約に含まれていない財産を記載するようにしましょう。

4.2 遺留分の配慮

遺言書には法定相続人の遺留分を侵害しないよう配慮が必要です。家族信託を用いて財産を管理する場合も、遺留分を無視した信託設計をすると、後にトラブルになる可能性があります。

遺留分を考慮して信託契約を設計し、遺言書においても遺留分を満たすようにしておくことが重要です。

4.3 信託契約内容の定期的な見直し

高齢者の財産や家族の状況は変化するため、信託契約や遺言書の内容についても定期的に見直しが必要です。

たとえば、新たに不動産を購入した場合や、家族構成が変わった場合には、信託契約や遺言書の内容を最新の状態にすることで、意思に沿った財産管理・承継を行うことができます。

4.4 専門家への相談

家族信託や遺言書の作成には、法的な知識が必要です。信託契約や遺言書の内容に不備があると、無効になるリスクや、後のトラブルにつながる可能性があります。

信頼できる専門家(司法書士や弁護士、税理士)に相談しながら手続きを進めることで、安心して財産管理・承継を行うことができます。

まとめ

家族信託と遺言書の併用は、高齢者が安心して生前の財産管理と死後の相続を計画するための効果的な手段です。

家族信託により、生前の財産管理を信頼できる家族に任せ、認知症などのリスクに備えつつ、遺言書で死後の相続を円滑に行うことができます。これにより、財産が本人の意思に沿って管理・分配されるため、家族も安心して日々を過ごせるでしょう。

当事務所では、家族信託や遺言書の作成を含む生前対策に関するご相談やサポートを提供しています。今後の財産管理や相続についてお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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